令和3年度大和市さくら文芸祭「俳句の部」
令和3年度大和市さくら文芸祭「俳句の部」の受賞作品および審査員講評です。
審査員
梶原 美邦
最優秀賞 高浪 國勝
振り上ぐる考の腕や飾臼
臼は農家にとって神仏に近い神聖な道具であった。正月に筵を敷き、据えた臼に注連を張り、鏡餅を供え新春を祝うと、亡き父の餅を搗く若き腕が蘇った。
優秀賞 加藤 滋
秋祭りコロナ気遣う太鼓の音
コロナ禍の日常が三年に及ぶ。感染予防の為にイベントは中止や縮小を余儀なくされる中での秋祭。密を避けねばという心が撥に伝わって太鼓の音が鈍る。
優秀賞 高津 茂々乃
冬落暉川面を染むる老舗宿
県外を跨いでの移動は避けるコロナへの対策が経済に大打撃を齎している。祖先代々繁盛して川面に映っていた旅館も、冬の夕日の中に沈もうとしている。
優秀賞 志賀 久一
鄙の戸の留守を守宮にまかせけり
日本全国、今ではどの家でも鍵を掛けないことはないが、昔は都から遠く離れた田舎では鍵を掛ける家はなかった。夜や外出する時、留守番は守宮に頼んだ。
優秀賞 下山 芳廣
谷戸川の瀬音ひそやか寒の入り
丘陵の小川の源流で森や沼の動植物を育む谷戸川が音をしのびやかにし始めると、三〇日間(一月五日頃の小寒から二月四日頃の節分まで)の寒に入る。
優秀賞 高橋 克
海溝の怪魚となりて大昼寝
人類は背骨に海を組み込み、海から陸に遣ってきたという書を読んでいるうちに、うとうと昼寝、水深六千m以上の海底に棲む奇妙な魚になってしまった。
優秀賞 中村 茂昭
煩悩を真つ逆さまに滝落つる
密教や修験道や神道などの滝行の体験があちこちで行えるようである。滝壺に入って、先ず煩悩が滝の冷水の衝撃を受け、耐えると次第に楽になってきた。
優秀賞 野澤 星彦
春を待つ最終バスの赤ランプ
夜遅くまで、仕事に追われ、区切りをつけて、駅に向かう。途中バス停から最終便と思われる車が発った。尾灯の赤ランプが春の彩を滲ませていた。
優秀賞 山崎 照子
背を正し名のるひ孫らお年玉
昔のお年玉は年霊で、その年の神が宿る餅であった。今はお金。曾孫たちは慣れ合いを他人行儀に切り替え、お年玉を貰う、真剣な態度で自分の名を告げた。