平成30年度大和市さくら文芸祭「俳句の部」
平成30年度大和市さくら文芸祭「俳句の部」の受賞作品および審査員講評です。
審査員
梶原 美邦
最優秀賞 近藤 昭子
手をつなぐガン病棟の春袷
華やいだ裏地のついた着物が春袷。それを着てガン病棟の廊下を、手をつないだ二人が歩いてゆく。家族と患者の掌がしっかりと結ばれている。深い祈りと支える温もりが通い合ってゆく。
優秀賞 加藤 和子
影ひとつ動くものなき炎暑かな
外に出るとしずけさがカーンと頭上でなったような気のする炎暑。歩くと影を奪われてゆく様な不思議な感覚に襲われる。見渡してみると、草木も石もみんな沈黙している。
優秀賞 河村 美恵子
遅き子を待ちて痩せゆく毛糸玉
子どもは塾やクラブ活動など、多忙な毎日である。それに関わる思いもよらぬ事件などが起こる。親は子どもの帰りが遅いと、悪い方へ思いを巡らし、編む毛糸玉が痩せるほどの心配をする。
優秀賞 木藤 薫子
秋すだれ外して空の高さかな
風が涼しくなり、日差しが柔らかく澄んでくると、それぞれの家は簾を外して仕舞う。今まで隙間から見えた風景が突然開けてくる。切れ切れだった空が高く澄んで広がる。
優秀賞 高浪 国勝
紅葉づるや妻に逸れて乾門
昨年十二月一日から九日間、皇居の乾通りが一般公開され、紅葉を堪能した。夢中になっている間に、妻の姿が見えない。とりあえず退出口である乾門(皇居北西の門)で待つことにした。
優秀賞 塚田 響輝
寒の街小走りで行く待ち合わせ
立春前の約三十日間が寒期。小寒・大寒と身が縮むような日が続く。街も息をひそめているかのように、影を落としている。出るのが遅い分、約束の時間に遅れそうだ。息が白く乱れる。
優秀賞 露木 君江
雪嶺の襞鮮明にキックオフ
キックオフはボールを蹴って試合を開始、または再開すること。ラグビーの試合。観客の開始の緊張した眼が、蹴って上がりきったボールの背後に、雪山の襞を一瞬鮮やかに捉えた。
優秀賞 藤原 ミツエ
片隅に紅梅のある八百屋かな
紅梅は白梅にやや遅れて花期を迎える。それを昔日より愛でたものだ。野菜を商う八百屋の片隅に紅梅。この時季は口コミ広告となって、紅梅の八百屋さんとして親しまれている。
優秀賞 宮田 いさみ
橋脚を水面に映し春を待つ
脚の長い、スタイルの良い橋である。冬の川は水量が少なくなる。寒々と川の中の小川が、水溜りから水溜りへと、僅かに流れゆく水に脚を映して、雪解けを待つ構えである。