令和2年度大和市さくら文芸祭「俳句の部」

更新日:2021年08月19日

令和2年度大和市さくら文芸祭「俳句の部」の受賞作品および審査員講評です。

審査員

梶原 美邦

最優秀賞 伊澤 利保

擦る手に春待つ声を吹きかけて

手の平に寒さが張りついてくる。掌を合わせて擦り落とそうと向きになる。ふと微かな温み。思わず春への心の声を息として掌に強く吹きかけていた。

優秀賞 河合 紘一

飛び立ちて光となりぬ初雀

群れをなして雀は温さに寄り添っていた。土と同じ色の衣装を纏っていたが、人間の視線を感じ、一斉に飛び立った。恐怖が光の粒となって空に広がった。

優秀賞 河村 美恵子

リハビリの文字に力や賀状来る

日常に適応できなくなつた身体の機能を治すべく、訓練を受けていると言う友。今年は来ないと思っていたが、回復を思わせる元気な文字の賀状が来た。

優秀賞 小糸 藍子

一つ聞き一つ忘れる残花かな

忘れる事は人間の命を守る武器。齢を取ると「若き記憶」を抱き、昨日を忘れ今日に生きる。ふと散り残った花の過去を懐かしむ風情に似ていると思った。

優秀賞 佐藤 正一

マスク顔目のみで解る友来たる

西洋の方がマスクを嫌うのは口の動きで相手の心を察する処にある。日本人は目付きで他人の心を読む。直ぐに友と判るマスクの目の友が遣って来た。

優秀賞 中村 みき子

目の合ひて枝付きの柿貰ひけり

この句も「目」が効いている。来年の豊作を祈る木守柿を残し、一枝を竹の竿先に挟んで折った瞬間の視線が近所の私の目と合い、柿を戴く事になった。

優秀賞 林 宏子

大空へ息吹のひかり冬木の芽

雑木林の中にいると、芽吹く音が聞こえると言う。又山の芽吹く息が空を霞ませるとも言われる。芽吹く前の山の木の芽は力が艶めき、空に息吹を輝かす。

優秀賞 堀場 美知子

先頭は紫雲英のティアラ縄電車

田圃に緑肥となる紫雲英(レンゲソウ)が咲いている。縄電車は畔道を通り、春の田畑で花摘みをしたらしく、先頭の子は王冠型の髪飾りをして遣って来る。

特別賞 海井 紗和子

公園でだれを待つのかゆきだるま

公園にゆくと、親子が話し合いながら雪達磨を作っていた。夕方通りかかると、雪達磨はどこかへ出かけそうなバケツを被り、誰かを待っているらしい。

特別賞 田場 龍翔

大そうじこの一年をふりかえる

年末一家総出で、家の中から庭まで掃除。自分のもの、お母さんの物等、次々と目がゆく。これは旅行の時に買った物。楽しかったね、と一年を振り返る。

特別賞 吉田 彩乃

帰り道ゆうぐれ早く思った日

小学校に入るまでは友達と外で日の暮れるのを忘れて遊んだ。今は学校と塾とで忙しい。塾へゆく途中、過去との対比の中で、「暮早し」と、呟いていた。

特別賞 鈴木 悠太

夜があけて新たな一年こんにちは

無観客の紅白歌合戦を観ながら、今年はコロナの話題ばかり。来年には自由に外出できるといいね、と床に就く。朝起きて新年にお願いね、と挨拶した。

最優秀賞 八木 せいじ

冬茜ボトルシップの中の凪

茜は赤根。根から採る染料。冬茜は冬夕焼。窓際の素敵なウイスキーの瓶の中に夕焼が忍び込んで、浮かぶ船を染めると、瓶の中の海が一面に凪いでいった。

優秀賞 釜谷 徹男

かわせみの値踏む浅瀬や鮒の影

翡翠が川へ突き出している古木の枝に停まっている。空飛ぶ宝石と言われている鳥。静けさの中で鋭い眼が獲物の品定めをしている。鮒が近づいてきた。

優秀賞 熊谷 うめ

海色に街の暮れゆく弥生尽

弥生はイヤオイ。ますます草木が生い茂るの意。三月、港町は海の明るさに、暮れなずむ。空に反射する藍色は、そのまま街を染め上げて、暮れてゆく。

優秀賞 坂野 光成

世論揺れ原発揺らす蜃気楼

地震に襲われる度に原子力発電所の放射能が心配になる。化石燃料も大気を汚染する。クリーンな風力がよい等と世間は蜃気楼の風景が揺れる様に揺れる。

優秀賞 志賀 久一

春疾風子ら追う声もちぎれ飛ぶ

西や南から吹く、強い風の中。親の心配げな声が追いかける。風がやむ間も子を追いかける声。子は面白がって逃げる。又、突然の風に声が千切れて飛んだ。

優秀賞 高橋 眞也

冴返る医師は一語の間をおきて

何処か気になる事があり、医師の診断を受けた。結果を述べる段になって、医師の口元に一瞬言葉が閊えた。全身に寒気が奔るのを感じて狼狽して終う。

優秀賞 露木 君江

冬銀河奥歯で砕く金平糖

冬空には先ず昴が、そしてオリオン星座が大気の澄みにすむ中、鋭く美しい光を放つ。口中の幾つも突起のある砂糖菓子を星にみとれて思わず奥歯で砕いた。

優秀賞 前田 久美子

里帰り障子まぶしき目覚めかな

故郷に帰った。実家は伝統的な建築様式で、外から雨戸、次が廊下、そして障子の部屋である。兄が雨戸を開けたのだろう。懐かしい障子の明るさに目覚めた。

優秀賞 横山 裕

本殿にスプリンクラー神迎へ

陰暦十月一日に全国の神々は留守番を残して、出雲にゆく。運命や縁や天気等の会議をし、月末に帰るという。人間は環境を整え、丁重に「神迎へ」を行う。

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