令和3年度大和市さくら文芸祭「短歌の部」
令和3年度大和市さくら文芸祭「短歌の部」の受賞作品および審査員講評です。
審査員
山田 吉郎
最優秀賞 遠藤 寛
大山の嶺に礼をし稲を刈り刈り終へし田に父は礼をす
霊峰大山に見守られ、稲の収穫に向き合う父の姿を詠んでいる。遠き日の父を回想しているのかもしれない。風土と融け合う人々の暮らしが伝わる一首。「礼」は「れい」のほか「ゐや(いや)」(古語)と読んでもよいだろう。
優秀賞 貝塚 よしたか
大寒に胸を反らしてラジオ体操青天に見ゆる飛行機雲1本
「胸を反らして」という身体の動きが、大寒という季節感と相まってすがすがしい。さらに「飛行機雲1本」という描線の太い表現が新しく注目した。
優秀賞 國近 優斗
鼻と口マスクで見えはしないけどあなたの笑顔いつも見えます
マスク生活がつづくなかで、見えないはずの「あなたの笑顔」が「いつも見えます」とはっきり言い切ったところが新鮮である。日常会話語が生きている。
優秀賞 齋藤 奏音
現代文の授業はたのし李徴子の生きざま学び我が振りなおす
李徴子は中島敦の小説『山月記』の主人公で、この作品は国語教科書に頻出する。自尊心に身をほろぼす主人公への若い作者のまなざしが印象的である。
優秀賞 中田 勇
ヒマラヤシーダー伝い歩けば足元から樹の上からも音ぞ弾ける
美しく端正な枝葉が印象的なヒマラヤシーダーを、「音」で表現したところがユニーク。字余りはありながらも一首全体の歌の調べがのびやかでよい。
優秀賞 本田 卓
卒業生を時間なくとも相手する在校生を指導しながら
教師の日常は忙しいが、訪れる卒業生を「時間なくとも相手する」のである。それがまた作者の歓びでもあるのだろう。ここが一首のポイント。職業詠として実感がこもる。
優秀賞 吉田 美代子
母の顔ほほゑみて見えある時は泣くがに見ゆる遺影の写真
母の遺影を前に、母の表情がそのときどきに変わり、心の会話がなされているような一首。哀切ななかに心の慰撫されるようなおもむきが感じられる。